●『アメリカ人は猫舌?』 2007年東書Eネット掲載

アメリカ人は猫舌である。 
それに気がついたのは、ニューヨークにある「さっぽろ」というラーメン屋で、アメリカ人がラーメンを食べているところを目撃したとき。プラスチックのレンゲの上に、いちいち麺を山のようにのっけて食べていた。ご丁寧にお箸で一本一本のせていく。「あんな食べ方していたら,せっかくのつゆのうま味が麺から落ちてしまうではないか。だいいちレンゲにのっけているあいだに麺が冷めてしまうではないか!」と、ちょっと苛立たしく観察していた。その時、はたと気がついた。これはパスタの食べ方、ラーメンバージョンではないのか?左手のスプーンをちょっと斜めに持ち、右手に持ったフォークでパスタをくるくるっとまわしてからめとるあのしぐさである。そのスプーンがレンゲであり、フォークがお箸。本当はお箸をくるくるっと回して麺を絡めたかったに違いない。しかしお箸を回してもフォークのようにはいかない。しょうがなく、麺をレンゲにのっけて食べるというアイディアを思いついたのだ。かくして麺とスープの分裂、という状態でラーメンを味わう彼らであった。果たしてうまいのか?

話は飛ぶが、友人のフェルナンドとうどんを食べていた時の事。ずるずる〜ッと私が食べていたら、「なに?なんでそんなに音立てて食べるのおー?」とぶっちょうずらの彼。「オレが小さい時、うちでそんなことしたら、パパが怒ったよ」「なにいってんのよ。うどんは音を立てて食べなきゃいけないのよ」「そんなわけないだろ!食べるときは音立てちゃいけないんだ」二人の箸が止まる。
 そういや、なんで音がするんだ? 
私はじーっと考えた。確かに食べる時に音を立てるのは行儀が悪い。しかし麺類に関しては、なぜか例外である。親父もおばちゃんもおばあちゃんもおじいちゃんも、そして孫も、み〜んな、ずるずる〜っと、食べるのである。では音を立てずに食べてみよう。そうすると麺をくちびるがしっかりおさえないと、持ち上がらない。ところが麺の熱さでくちびるが触れられたものではない。じゃあ、歯でかんで押さえてみよう。今度はかんでも吸い上げる力が無いので、いちいち麺をお箸でたぐることになる。でもそのうちに麺に絡まったうまいスープは落ちていってしまう。おまけに麺は急激に冷めはじめる。つまり、あのずるずるっとやる行為は、熱い麺を熱いまま、そしてその麺に絡み付いたスープをそのまま口に運ぶ事が出来るまさに一石二鳥のスーパーテクニックだったのだ!

こんな素晴らしいテクニックを生み出すってすごいことじゃない???と、思いきや、フェルナンドの冷たいお言葉。
「どうして熱くなきゃいけないの?」
「.......。」 
そういえば、西洋料理の熱いスープは、平たいスープ皿に入れられ冷まされ、しかもスプーンですくって飲む。日本のお吸い物のように、くちびるが直接熱いつゆに触れるという事がない。よく考えたら、あまり熱い料理はなさそうである。しいて言うなら、チーズフォンデュか? 
反対に日本人はなんでもかんでもおつゆを直接すする。鍋もみんなで「熱い、熱い」といってフーフーしながら、うれしそうに食べる。日本人は相当アツもの好きであるようだ。 
という事は、冒頭のラーメン屋のアメリカ人は、麺とスープの分裂でうまいと感じているのかもしれない。でもなんか納得がいかないなあ。ホントの麺のうまさを教えてあげたいもんだ。よし、そのうちフェルナンドに、うまい麺の食べ方を伝授する事にしよう。 
もちろん、パパにはナイショで。

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